モンテッソーリ教育において、大事な一分野である、「日常生活の練習」。
一体それは、どんなものなのでしょうか?
はじめに 〜日常生活の練習とは?〜
子どもたちが日常的に目にしていて、日々の生活の中で実際に必要な動作を練習することを「日常生活の練習」と言います。
例えば、『机を洗う』『花の水を替える』など、誰かのためにすること。
他にも『靴を磨く』『衣服の着脱』など、自分のためにすることもあります。
(窓ガラスの掃除の様子)
「え?何のために子どもがこんなことやるんですか?」と思われる方もいるかもしれません。
「子どもが“食器を洗う”よりも、英語や数など、もっと学問につながることをやった方が良いのでないでしょうか?」そういった疑問が出るのも理解できます。それほど大人にとっては、一見当たり前で面倒くさい雑用のような活動に見えるからです。
しかし日常生活の練習は、子どもにとって全ての基礎であり、たくさんの意味があります。
日常生活の練習の目的
例えば、「机を洗う」という活動を例にあげます。大人にとっては「汚い机がピカピカになる」ということが目的だと思いがちですが、子どもにとってはそれだけではありません。
①動きの獲得と洗練
自分の思い通りに動くように、体のすみずみまで動かしたい!と強く思っている、「運動の敏感期」にいる0歳~6歳までの子ども達にとって、日常生活の練習では、指先の細かい運動、手首をひねる運動、腕や肩を使う運動、身体全体を使う運動など、ありとあらゆる動きの身につけて、調整する機会を与えてくれます。そして、「くりかえし」することによって、どんどん洗練されていきます。
(パン作りの様子)
②自立心を養う
大人の手をかりずに自分でできるようになることから、「自立心」を養います。
③自信を養う
その結果、何でも自分でできるという「自信」を養います。
④自己肯定感を養う
自分は、まわりにとって役に立つ有能な人間なんだという、「自己肯定感」を養います。
⑤文化への適応を助ける
その文化の活動(例えば日本なら、お茶を入れる、ほうきで掃くなど)をすることによって、「文化への適応」を助けます。
(深草こどものいえ の竹ぼうき)
⑥秩序感を養う。
それぞれの活動が一定の順序で行われることや、同じところに配置されていることから、「秩序感」を養い、段取りをもって活動していけるようになっていきます。
その他にも、言語の発達を助けたり、意思や集中力を養ったりと様々な目的があります。
6歳までの日常生活の練習
モンテッソーリ教育を行うご家庭や、インファント・コミュニティ(1歳~2歳児クラス)では、きっとよちよち歩きの頃から、色々なことを繰り返してきましたね。(例)『バナナを切る』『スポンジで机を拭く』など。
3-6歳になると、もっと高度な長い工程のことをできるようになっていきました。(例)『布や食器を洗う』『植物の世話をする』など。
(植物の葉を拭く様子)
じゃあ・・・小学生では?「日常生活の練習」は6歳以降は必要ないのでしょうか?6歳以降は運動の敏感期ではないから、日常生活の練習は必要なくて、小学校の勉強さえしていればいいのでしょうか?
それまでの全ての経験が統合された小学生の日常生活の活動!
6歳以降の日常生活の練習って、モンテッソーリの小学校ではどんな風に行われるのでしょう。実はモンテッソーリの小学校には、いわゆる「日常生活の棚」というものはありません。
(Taipei Utopia Montessori Elementary Schoolの教室の様子)
しかし、それまで6年間培ってきた部分部分のお仕事を総動員したのが、小学生の「日常生活の練習」です。
ある日のモンテッソーリの小学校では、『切る』『注ぐ』『絞る』『洗う』『炒める』『よそう』『とりわける』『並べる』などが、一連の流れとして「1時間半以上の日常生活の活動」として行われていました。「ああ、それまでやってきたことは、ここで花開くのか!」そんな風に感じた感動的な場面でもありました。
それでは、究極の「環境への配慮」の日常生活のお仕事の様子をみていきましょう。
小学生がたった二人でつくる、30人分の給食
お当番さん二人の動きを追って見てみます。
10時半になりました。当番表で自分が給食当番だと分かっている子ども二人で作業開始。
炊飯の準備
まずはお米の準備です。
お米を研いで、水を計って、
炊飯器に入れてセットします。
食材のカット
次に、食材のカットです。冷蔵庫からその日の食材を取り出します。ひとりが大根を洗い、もうひとりがキャベツを切ります
キャベツをどんどん切ります。
大量です!
炒め物、スープの調理
食材を中華鍋に投入!しいたけ、にんじん、キャベツなど切った食材を炒めます。
一方で肉団子も切ります。
大根を切ります。
炒める横では、切った大根と肉団子でスープも作っています。
よいしょっと。シェフは実は踏み台を使用。
副菜の炒め物、完成です!約30人前。
スープも完成!
デザートの準備
今日のデザートはグアバ。固かったけど、頑張ってこちらも全部切りました!!
ざくざく・・・
カットされた大量のグアバ。
食卓の準備
クラスメートと先生の食器を並べて、盛り付けの準備をします。
洗濯したランチョンマットも用意。
盛り付けの準備が整いました。
主菜(卵料理とお肉いため)は、お隣の幼稚園の調理場からもらってきました。重い鍋も自分たちで運びます。
それ以外は全部二人で用意してくれました。頂きます!
1時間半以上かけて作った給食、みんなで食べるとおいしいね。
食後
食べた後の食器は、各自で洗います。
食後は、食休みもかねて、読書時間。
その間もお当番さんは、お掃除の仕事が残っています。
床を掃き・・・
使った調理器具を洗い、机を拭きます。
清掃を終わらせてお役目が終わります。
横から指示をする大人はいません。小学生二人だけでここまできちんと、大人顔負けのお仕事ができるんです。
ありがとう、は言わなくていいよ
6歳までは、「ありがとう」と言われることで、自分がみんなの役に立ったんだ!とうれしい気持ちになりました。
それに比べると、小学生たちはクールです。先生もお友達も、誰も「ありがとう!」「○○ちゃんがつくってくれたの美味しいよ」などと言いません。しかし、毎日誰かが交代で、お互いに作ることが当たり前だと思っているので、お当番さんたちも、感謝されることを求めていません。
「だって、やるのが当たり前だから」そう語ってくれた、お当番の子どもたち。6歳までにモンテッソーリ教育で培ってきたものを、そのしっかりした表情に垣間見た気がしました。
(取材、写真、文:あべようこ)
もっと学びたい方へ
noteにて、あべようこによる有料マガジン「月刊 モンテッソーリ・エレメンタリー・ファン」が始まりました。ここでは、モンテッソーリ教育小学校課程に関する限定記事をお届けします。
記事では、漫画やイラスト、動画等を用いながら、海外のモンテッソーリ園やAMIのエレメンタリーコースについてもシェアしていきます。
モンテッソーリ教育小学校課程を知りたいはじめてのママ・パパや、教育関係者の方にもおすすめです!
初月無料です!ここでしか読めない貴重な記事を、是非ご購読ください。
お知らせ
現在イデー・モンテッソーリでは、モンテッソーリ教育の子育てセミナー、講演会、園の先生向けの勉強会、研修講師などのご依頼を承っております。
過去のマンガを使ったモンテッソーリの子育てセミナー、勉強会などでは、「モンテッソーリ教育による子どもの見方やたすけ方を、楽しく、わかりやすく知ることができた!」と大きな反響をいただいています。海外のモンテッソーリ園の事例もご紹介します。
ご希望の方は、お気軽にお問い合わせください。
ご相談、お見積もりは無料です。