2024.11.29 モンテッソーリ教育の未来を体感する 〜ハーシー・モンテッソーリ・スクール訪問記〜


日本では、モンテッソーリ教育の小学校以上への関心が高まっており、多くの家庭が児童期以降も子どもの成長に寄り添った多様な学びを求めています。

 

 

そんな中、アメリカのオハイオ州クリーブランドの近くにある「ハーシー・モンテッソーリ・スクール(Hershey Montessori School)」は、0歳から18歳まで一貫してモンテッソーリ教育を実践しており、私たち日本人の目指す教育の可能性を大きく広げてくれています。

 

私は先月この学校を訪問し、0‐18歳までのモンテッソーリ教育を忠実に行う真の現場を目の当たりにしました。

 

特に、12歳から18歳の思春期を迎える生徒たちが学ぶ中学校・高校キャンパスは、自然に囲まれた農場スタイルの環境であり、学びの質と生活の一体化が見事に調和していました。

 

取材・文 あべようこ(イデー・モンテッソーリ編集長)

 

ハーシー・モンテッソーリ・スクール訪問記

46年の歴史を持つ「ハーシー・モンテッソーリ・スクール」

ハーシー・モンテッソーリ・スクールは、1978年に「Western Reserve Montessori School」という名前でスタートしました。3歳から6歳の子ども8名を対象に借りた部屋で始まったこの学校は、今では0歳から18歳までの約250名の子どもが通う、世界でも有数のモンテッソーリスクールへと成長しています。

 

(高校の校舎)

 

今回ご紹介するのは、オハイオ州ハンツバーグにある中学校・高校のキャンパスです。このエリアは、自然豊かな住宅街に囲まれており、敷地内には広大な農場、寮、学舎などが点在しています。まるで大きな牧場のようなキャンパスは、生徒たちが自立した生活を送るための理想的な環境です。

 

 

自然と共に暮らし、学ぶ空間

ハーシーモンテッソーリの中学校高校の魅力の一つは、何と言ってもその「農場スタイルのモンテッソーリ教育」で「アードキンダー(Erdkinder / 大地の子どもたち)」の理念に基づいています。

 

マリア・モンテッソーリによって開発されたこのコンセプトは、思春期の子どもたちが「社会生活の要素の中にある学校」で自然の中での実体験を通して最もよく学び、自立と社会参加を促進することを強調しています。

 

 

学校の敷地には、馬、豚、やぎ、鶏、納屋の猫といった動物たちが飼われており、生徒たちはそれらの世話をしながら、命の尊さや自然とのつながりを実感しています。また、ガーデンでは季節ごとに育てられる野菜や果物が食卓を彩り、彼らの食生活を支えています。

 

 

専門性と情熱に満ちた先生たち

この学校のもう一つの大きな特徴は、先生たちの質の高さです。ハーシー・モンテッソーリ・スクールの教師陣は、経験豊富であり、長年モンテッソーリ教育に情熱を注いできた人たちばかりです。

 

(Hershey Montessori School 中学校、高校の先生たち)

 

例えば、中学校のディレクター兼数学教師のBrooks Cavin先生は、モンテッソーリ教育に深い理解を持ち、長年にわたり生徒たちに寄り添った教育を提供してきました。彼のような教師たちがこの学校には多く在籍しており、単に教科を教えるだけではなく、生徒一人ひとりの成長と自立を見守り、支えてくれます。

 

(後列:Brooks先生 / 前列左:あべようこ、右:生徒たち)

 

教師たちは、生徒たちに「自ら考え、自ら選択し、自ら行動する力」を育むために、常に一歩引いた立場で見守りながらも、必要な時には的確なサポートを提供します。彼らの教育に対する情熱は、生徒たちにも伝わり、学校全体が協力し合いながら成長を続けていることを感じました。

 

共に暮らし、共に学ぶ「家族」のような学校

キャンパスを案内してくれたのは、16歳の生徒。彼の案内で、最初に訪れたのはリビングルームのような、みんながくつろげるスペースです。

 

 

大きな窓からは自然光が差し込み、木のぬくもりが感じられる空間で、細部にまでこだわった美しさと居心地の良さが広がっていました。

 

驚くべきことに、掃除専用のスタッフはいないとのこと。生徒と先生たちが協力し合って、この美しい環境を維持しているのです。

 

(各部屋に掲げられていた掃除リスト)

 

その後訪れたのは「ダイニングルーム」。ランチタイムになると、調理スタッフと担当の生徒が準備した食事がブッフェスタイルで並びます。ここでは、年齢や学年に関係なく、生徒と先生が一緒にテーブルを囲み、食事を楽しみます。食事中も自然と会話が生まれ、学びの場を越えてのびのびとしたコミュニケーションが行われていました。

 

(ダイニングルーム)

 

ランチのメニューには、ガーデンで収穫された新鮮な野菜が使われ、時には農場で飼育された豚や鶏の肉も提供されます。生徒たちは自分たちで育てた食材を頂くことで、食べ物がどこから来ているのかを学び、命への感謝を感じる機会を得ています。

 

(ランチはスタッフや生徒が皆で取るブッフェスタイル)

 

アートと自由な表現の場

ハーシー・モンテッソーリ・スクールはまた、言語や芸術における思春期の自己表現の必要性にも応えています。訪れた「アートルーム」では、生徒たちが描いた作品が飾られており、特に階段の壁に描かれたカラフルな絵は、彼らの想像力と創造力を象徴しています。

 

 

自由な表現が尊重され、各自が思い思いのスタイルで取り組むアート活動は、生徒たちにとって貴重な自己表現の場となっているようです。

 

 

生徒たちの声――自由と責任が育む成長

最後に、通っている日本人の生徒たちにも話を聞くことができました。

 

 

皆口をそろえて、「自由で、自分で決められる」「授業が楽しい」「先生も生徒も皆優しい」と、満足そうに話してくれました。

 

 

しかし、それと同時に、多くのルールや責任を持って自立した生活を送っていることも伝わってきました。

 

彼らは、楽なことばかりではない生活の中で、協力や仕事の喜びを学んでいるのです。

 

未来への願い

ハーシー・モンテッソーリ・スクールは、多くの寄付や応援に支えられながら、世界に誇るモンテッソーリ教育の理想を実現しています。現在、0歳から12歳の約200名が別のキャンパスで学び、12歳から18歳の約50名がこのキャンパスで教育を受けています。

 

(左から校長のPaula Leigh-Doyle先生、あべようこ、中学校のBrooks Cavin先生、入学管理・キャリアカウンセリング学部長Stori Zinkhann先生)

 

この訪問を通じて感じたのは、学びの場が生活の場と一体化し、生徒たちが主体的に未来に向かって成長している姿です。何よりも、先生たちの豊かな経験と教育に対する深い想いが、生徒一人ひとりの個性を引き出し、支えていることが、この学校の大きな強みだと感じました。

 

いつの日か、日本にもこのような0歳から18歳までの一貫したモンテッソーリ教育が根付くことを心から願います。

 

取材・文:あべようこ

 

 


 

■ハーシー・モンテッソーリ・スクール(Hershey Montessori School)

 

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