「しつけ」の考え方について
子どもへの「しつけ」について、モンテッソーリ教育ではどのように捉えられているのでしょう。
来春より東京都あきる野市にて、国際モンテッソーリ協会(以下、AMI)認定「0-3歳 教師養成コース」が開催されます。今回は、こちらのコースのトレーナーであり、AMI友の会主催の講演会のために来日していたサラ・ブレイディ先生に、「0-3歳の子育て、保育」について伺いました。
全3回に渡ってお届けするインタビューの最終回です。
Profile
サラ・ブレイディ先生
AMI公認の0-3歳の教師養成トレーナー。世界各地で0-3歳の教師養成コースを開催し、特に米国のダラス、中国、そしてシドニーでは主任トレーナーとして活躍している。米国メリーランド州にあるロヨラ大学で教育学の修士を取得後、多様なモンテッソーリ教育の環境(長時間保育、幼稚園、ホームスクーリング)での経験を持ち、ニド(しっかりと歩くまでのモンテッソーリクラス)そしてインファント・コミュニティ(歩行児から2歳半までのクラス)、さらに親子クラスでの経験がある。これまで卒業試験の試験官として2度来日している。現在、オーストラリアのシドニーに夫と3人の子どもと在住。
【サラ先生へのインタビューの第一回目の記事はこちらをご覧ください。】
インタビューとイラスト:あべようこ(イデー・モンテッソーリ編集長)
子どもには厳しくしなければならない?
小さい子の「しつけ」に悩む人も多いと思います。人によっては「子どもが小さい時から厳しくする必要がある」と考える人もいます。
モンテッソーリ教育の0-3歳のスペシャリストであるサラ先生に、こんな疑問をお伺いしてみました。
Q. 小さな子への厳しい「しつけ」についてどう考えていますか?
サラ
「何に対して厳しいかにもよります。例えばモンテッソーリの理論である『自由と制限(※1)』においては、この『制限』に関してはとても厳しくなくてはいけないと思います。自由を与える時には必ず制限も一緒に与えます。
※自由と制限=モンテッソーリ教育の核となる理論で、子どもに自由を与えるためには、明確な制限·ルールが必要だという考え方
例えば、もし子どもが棚に登ろうとしていたら、制限を与えます。制限に関しては厳しくて良いのです。落ち着いた声で『それはしない』ときっぱりと伝えます。
でも、一般的な認識の『厳しさ』とか『制限』というのは、子どもに十分な自由を与えずに『これをしなさい!』と命令することだと思われています。このタイプの厳しさは、私は賛成しません。」
あべ
「バランスが難しい部分だと思いますが、クラスを運営するにあたり、大人が優しすぎるということを聞かないので、ある程度厳しくした方が良いと考える人もいると思います。例えば、入ってはいけないはずの場所に行った時に厳しく怒るなどです。」
サラ
「私は、どんな時も子どもとコミュニケーションをとることがとても大事だと思っています。
また、私たちは、小さな子どもに『吸収する精神』があることを意識しなくてはいけません。そして私たちが子どもに使う言語や話し方は、子どもは普通の会話として学習してしまいます。だから、もし誰かがとても怖い言い方をするのを聞けば、それはまさしく将来の子どもの話し方になっていくのです。
私はそれが良いことだとは思いません。ですから私が好むのは、感情的になって怖く言うのではなく、ただはっきりと『そこから出てきて、何か別のことをしましょう』と言うことなんです。」
あべ
「でも、もし子どもがその言葉を聞かなかったらどうしますか?言ってきかない場合は、腕を引っぱったりしがちだと思いますが。」
子どもは「理由」が知りたい
サラ
「自分は、めったに子どもに触って動かしません。もし、安全面で心配な場合はもちろんためらう必要はありませんが、危険ではない限り、私は子どもを動かしません。一緒にいて『そこにいるのはよくないことだ』と言い続けます。そして、最終的には子どもが自分で良いことと悪いことを判断する必要があります。」
あべ
「わかっていて、わざとやっていることも多いですよね。」
サラ
「もちろん、分かっています。だって『子どもだけが入ってはいけない場所』なんて禁断の果実のようなものです。『何がそんなに特別なんだろう?』『なんでそこに入ってはいけないんだろう?』と考えるでしょう。
子どもによっては、大人に入るなと言われたら、『そうか興味もないし別に構わない。行かなくていいや。』と思うでしょう。
でももちろん別のタイプの子ども達もいます。その場所に入らないように言われたら、『なんで?何があるの?その特別なことを知るまでは眠れない!』と思う子たちです。その子たちは、理由を知りたいんです。
そんな時には、見せてあげればいいんです。子どもは実際に見たらそんなに特別な場所じゃないことを知って、クラスに戻るでしょう。私たち大人は、子どもに対して怖い必要はないのです。
だから『しちゃだめ!』と怒るかわりに、『これはできるよ。クラスにいてもいいよ。何か新しいことを探しに行こう!』とポジティブな言い方をすること。そうすれば、子どもともっと効果的にコミュニケーションをとることができます。
だから、子どもに対して声を荒げたり、怖がらせるのには賛成できません。一度怖がったりしたら、脳はうまく成長しないんです。」
静寂なクラスには言語の成長がない
あべ
「一生懸命にクラスをうまく運営しようとするあまり、小さな子どもでも、コントロールしようとする先生はいませんか?」
サラ
「でも0-3歳クラスの先生は、大学生を教えているじゃないんです。ご存じのように、小さな子どものいるクラスは、時には混沌とした状態になります。なぜなら彼らは、私たちよりも失敗するからです。彼らは私たちよりも、声を出す練習だってする必要があります。
ある知人からこんな話を聞いたことがあります。ある時、とある園の1~3歳の環境を見学に行ったら、そこがものすごく静かで平和的で、ピンが落ちる音さえ聞こえたそうです。」
あべ
「しーんとしていたんですね!」
サラ
「そう。そして私は『それは実際には心配だ』と言いました。
なぜなら小さな子どもは言語を成長させることが重要で、誰かが話しているのを常に聞く必要があるからです。つまり静寂なクラスには、言語の成長がないということです。
ですから、多くのクラスはうるさくなるでしょう。彼らは叫んだり、大声をだすことも実験したいんです。そんな時にはただ子どもたちに『それをされると耳が痛いよ。叫ばないで普通の声を使おうね。それでも声が聞こえるよね。』と伝えれば良いのです。」
異年齢環境での制限について
あべ
「例えばハサミや針など、一部の小さな子どもには『危ない』と思われるものがあった場合、どのように制限を与えますか?まだ危ない子がいるから、環境からなくしてしまった方がいいのかと悩む先生が多いような気がします。」
サラ
「オススメは、はさみや針などは大きな子どもだけが開けられるような容器にいれておくということです。そうしたら、小さな子どもはそれに容易に手に入れることができなくなりますから」
あべ
「その容器は、開けにくいものということですか?」
サラ
「そうです。そうすれば、クラス(家庭でも)で大きな子どもだけ使うことができます。例えば、少し難易度の高い鍵やかけがね(※2)のついたものなど。少し大きい子には一緒にすわって『開ける閉める』のやり方を見せることができます。
※2 かけがね=物をかけてとめる、釣り針型の金具
針に関しては、ひねって開ける蓋のついた入れ物に入れるなど。はさみは必ず容器に入れるか、カバーをします。
そして、小さな子がアクセスしにくくする一方で、小さな子にも、充分挑戦のしがいのある、別の活動がなくてはいけません。そうすれば、その子たちも興味のあることをできます。」
あべ
「なるほど。そうですね!」
小さな子どもにまだ早い教材へ興味を持ったら言語レッスンに
サラ
「また、小さな子どもにとっては『針』というものを見る機会がありませんから、年上の子が縫っている姿を見て魔法のように思って見ることもあります。そしてその子が縫いさしの箱を持って来ることもあるでしょう。
そんな時は、まだ『縫う』という活動を紹介はしませんが、『まだこれには早いのよ!』とは言いません。『机を洗う』であれ、もし何かその子には早すぎるものに興味を持っている場合は····私は『名称レッスン』をします!
『これは針、糸、針山、紙···』など言語のレッスンをするんです。そして一緒に片づけたら、『次は何をしようか?』と誘います。」
あべ
「それは思いつきませんでした!」
サラ
「そして小さな子どもは衝動を抑えることも学んでいるんです。もちろん常に自分をコントロールすることはできません。何かをすぐに触りたい、と思っているし、いつもそうはできないのが現実です。もちろん安全面で気を付ける必要はありますが、もし全てを片付けてしまってそこに興味のあるようなものが何もなければ、どうやって衝動を抑えることを学べるのでしょう?
子どもは衝動を抑制することを練習するためには、魅力的な物も必要です。」
サラ先生、たくさんの疑問にお答えくださってありがとうございました!
0-3歳のモンテッソーリ教育についてより詳しく学びたい方は、4月からの0-3歳トレーニングコースに是非お申し込みください!
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