エレメンタリーガイド(小学校教師)のキャリアや、仕事としての魅力、そして資格取得の道のりなどをお伝えするキャリアインタビューをお届けします。
今回は、北九州市で2024年にモンテッソーリ小学校を開設準備中の大瀬朝楓さんへのインタビューです。(同僚の大谷さんへのインタビュー記事も合わせてご覧ください)
異業種からキャリアをスタートしながらも、モンテッソーリ教育との出会いから移住、留学に踏み切られた大瀬さん。
現在は小学校開設に向けて邁進されています。
モンテッソーリ教師になった経緯や、教師としてのやりがいについてお聞きしました。
(取材・文 イデー・モンテッソーリ ライター 松尾)
大瀬朝楓さんプロフィール
大瀬朝楓さん
AMI公認の6-12歳の小学校教師。
上智大学在学時にダイバーシティ&インクルージョン教育を研究。
九州に初となるモンテッソーリ小学校を開校するプロジェクトに参画し、福岡に移住。1年間オランダにて6-12歳の小学校教師取得のトレーニングを受けながら、ヨーロッパ諸国の小学校を視察。
現在は、2024年1月に北九州市に開校に向けて奮闘中。
0~3歳のうちから自分で選択する様子を目の当たりに
–大瀬さんは、新卒で人材業界に就職されました。そこからモンテッソーリ教師になられた経緯は、どういったものだったのでしょうか。
大瀬さん:
もともと海外の教育格差問題に関心があり、大学では途上国との国際協力のプロジェクトに携わったり、ダイバーシティ&インクルージョン、「多様性のある子どもたちがどのように排除されることなく共生・協働できるか」といったことについて教育観点から研究をしていました。
コロナ禍で留学はかなわなかったのですが、いつか子どもの幸福度が高いオランダや北欧の教育現場にも行ってみたいとは思っていました。
就職した企業ではキャリアアドバイザーをしていました。人生の転機を支援できるというやりがいがあった一方で、提供できる支援の限界と「こうあるべき」がつくられていった学校教育環境に再び疑問を抱くようになりました。そして、もっと人々が自分のありたい姿や使命を見つけられるようになるには、やはり日本の教育システムへのアプローチが必要だと考えるようになりました。
そんな中、後に一緒に小学校を立ち上げることになる大谷(カーサ・デ・バンビーニ代表)に出会い、大谷が運営する北九州のモンテッソーリ保育園の現場を見学させてもらいました。それが本当に衝撃的で、0~3歳のうちから、自分で選択したり、自分で自分の生活を整えようとする様子を目の当たりにして、とても驚きました。
異年齢の子どもたちが、お互いに教え合ったり、注意し合ったり、その生活が子どもたちの中で成り立ってる環境を見て、「子どもだからできない」みたいなことってないなと。
(写真提供:大瀬さん / カーサ・デ・バンビーニの子どもの様子)
– 実際に目の当たりにしたモンテッソーリ園の印象がとても強かったのですね。
はい。「百聞は一見にしかず」ではないですが、それまで座学では学んでいたものの、実際に子どもの姿を見てみると全然違いました。
この世界に生きる一人の人間として真剣に、そして満足そうに生きる子どもたちの姿に心から感動したと同時に、勝手に子どもの限界を決めていた自分に恥ずかしくなりました。
その環境にいる大人の在り方も含めて、自分が受けてきた教育とのギャップも大きかったですし、教育で変えられることの大きさに可能性も感じましたね。
(写真提供:大瀬さん / カーサ・デ・バンビーニの環境)
その後、大谷から「小学校を作りたいんだよね」という構想を聞いた時、初めは「小学校って作れるの?」と驚きもありました。しかし、同時に「ないなら作ればいい」と、人格形成に大きく影響を与える小学生の段階に携われることにワクワクして、小学校を作るために退職を決め、福岡に移住することになりました。
– 福岡への移住後、すぐにオランダに留学されたのですね。よく決断されましたね。
福岡に移住して2ヶ月経たないうちに、今度はオランダに行くことになりました。
「小学校を設立したい」となったときに、既存の日本の教育システムで生きてきた自分には知らないことが多すぎるという壁がありました。他のモンテッソーリ教師の方ともお話をする中で、書籍などで得られる表面的な概念ではなく、モンテッソーリ教育の深さを同じレベルで理解できなければ理想となる学校を共に作れないと思いました。
子どもの幸福度が世界一で、教育の自由が保障されているオランダの地で、モンテッソーリの思想を、自分がしっかりと理解することによって、納得感を持って小学校を設立していけるだろうという想いから、留学を決断しました。
新たな扉を開けたような感動と面白さ
– 素晴らしい探究心でいらっしゃいますね。留学は慣れない土地で大変だったと思いますが、振り返ってみていかがですか?
1年間のコースを受講するためにオランダのデルフトという街で暮らしていました。場所的にはアムステルダムから電車で1時間くらいの場所です。住む場所がなかなか見つからない大変さもありましたが、多文化が共生し、自由が尊重されているオランダは精神的にとても過ごしやすく、社会のあり方からも学べることが多かったです。
(写真提供:大瀬さん / 留学先のデルフト)
とはいうものの、留学期間中の勉強は「大学時代よりもインプットしたのでは?」と思うほど大変で、濃い1年でした。日本の小学校ではこんなところまで習わないというほど広く深く、正解もない教科横断的な学びは「終わりのない学び」で、クラスが終わった後もひたすら探究し続けていました。
一方で、留学しないと得られなかったものもあったと思っています。
一つは、世界中から色々なバックグラウンドをもった方が集まったクラスだったので、多様性と異文化理解、様々な教育観を知ることができました。
オランダだけでなく、オーストラリア、ナイジェリア、更にはオランダで生活中のウクライナ難民の方もいらっしゃいました。すごくお互いに助け合いながら勉強しましたし、クラス外での学びもとても大きかったなと感じています。
もう一つは、モンテッソーリのトレーナーからの学び自体の面白さですね。
私にとっては初めて出会ったモンテッソーリトレーナーですが、とてもパッションのある先生で、クラス環境で使う教具は全てが魅力的に作られています。だからこそ、トレーニングセンターの環境とトレーナーのレッスンはいつでも好奇心を掻き立て、自分自身も小学生に戻ったような気持ちで学んでいました。
宇宙が誕生してから何十億年の歴史を考えるなんてしたことがなかったので、新たな扉が開けたみたいな感動と面白さを感じましたし、自分が体験した学びの楽しさを、これから小学生に伝えていけるのかと思うと、とてもワクワクしました。
(写真提供:大瀬さん / 留学中の授業の様子)
– 3-6の資格をお持ちでなかった点は問題なかったのでしょうか?
クラスメイトのほとんどが既に3-6の環境を学んでいましたが、事前に3-6を取っておくのは、必須というわけではないと感じます。コースの最初の学期には、一通り3-6の環境で置かれている教具を使ってのレッスンや環境についても紹介してくれました。
ただ、モンテッソーリでは、3-6から6-12の繋がりがあるからこそ、3-6を事前に学んでおけば違った視点で6-12の学びを吸収できたのかなという思いはありました。3-6で感覚的に学んでいたことが、6-12で論理的な学びに繋がっていくプロセスを感じられるのは、3-6をしっかり勉強された方の強みかなと思います。
※3-6:AMI(国際モンテッソーリ協会)公認国際モンテッソーリ教師資格 3‐6歳レベルのこと
※6-12:AMI(国際モンテッソーリ協会)公認国際モンテッソーリ教師資格 6‐12歳レベルのこと
学びが無限に広がっていく
– 現在は北九州でのモンテッソーリ小学校開設に向けて準備中と伺いました。
資格を取得して帰国してからは、来年1月の小学校開校に向けて準備をしています。
夏はサマーボーディングスクール、秋以降も小学校の環境を体験していただける日を何度も開催しています。
教具も日本では買えなかったり、自作しなければいけないものが膨大にあるので、オランダで購入したものを「日本語と英語」のバイリンガル仕様に翻訳したり、自作したりしています。
(写真提供:大瀬さん / MEKでの授業の様子)
▼開設準備中のモンテッソーリ・エレメンタリースクール 北九州についてはこちらを御覧ください
https://scuoladeibambini.jp/mek/
– 実際に小学生と接してみて、エレメンタリーガイドとしてのやりがいはどんなところにありますか?
まだこれからなんですけど、日本で初めてレッスンをやってみて、子どもたちがこんなに興味持ってくれるんだというのがわかって、これから作る小学校の可能性を感じました。
オランダで実習の時は大半が「ずっとモンテッソーリ教育で育った子どもたち」だったので、日本の公立学校に通う子どもたちへのレッスンは、少し不安がありました。
そんな不安は束の間、想像力と好奇心が旺盛な子どもたちは、ものすごい集中力でレッスンに参加してくれて、レッスン後も自分で実験にチャレンジしたり、フォローアップ活動をしたりする姿が見られました。
子どもに合わせたアプローチ一つで、私たちの想像を超える勢いで学びが無限に広がっていく姿を目の当たりにして、とても嬉しかったですね。
(写真提供:大瀬さん /MEKでの授業の様子)
常に冒険の旅に出かけられる姿勢
– どんな方がモンテッソーリの小学校教師に向いていると思いますか?
教育にはずっと関心がありましたが、正直、教師になろうとは思ったことはありませんでした。日本の学校の先生になりたい!というよりは、純粋な探究心をお持ちの方が向いているのではないかなと感じています。
6-12の学びも、トレーナーが私たちに教えてくれるのは最初の鍵だけです。正解が一つではないからこそ、その鍵をどこまで深掘り、理解するかは自分次第です。「教えてもらう」という姿勢ではなく、「自分で学びたい」「もっと知りたい」と常に冒険の旅に出かけられる姿勢があると楽しめると思います。
モンテッソーリの環境で子どもたちが学んでいくのも、まさにそういう感じで、知識を得ながら子どもたち自身で探究していく、誰かに与えられた正解をインプットするにとどまらず、答えのないこの世界で自分なりに何かを探究し発見していく、ということが生きる力に繋がっていくんだと思います。
– 本日はありがとうございました。開設される小学校も楽しみにしております。
編集後記
大瀬さんは2023年11月現在、北九州市に新たなモンテッソーリ小学校の開設に向けて活動中です。
スクールの説明会やトライアルも実施されています。
詳細はこちらをご確認ください。
また、共同で小学校を設立される大谷さんにも、モンテッソーリ教師になったきっかけや、エレメンタリーのカリキュラムついてお話を伺いました。
記事はこちらをご確認ください。
お知らせ
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会員同士で英語の提供の翻訳をしたり、日本向けの教材を作ったりしています。
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