本企画では、羽賀翔一さんにお伺いしたお話を、3回に渡ってお届けします。
【第1話】売れっ子漫画家はモンテッソーリチャイルド!(←今回はこちら)
【第3話】漫画家への道と、これからの夢
漫画家・羽賀翔一さんの描いた『漫画 君たちはどう生きるか』は、2018年の年間ベストセラー第1位に輝きました!
2017年にマガジンハウスから出版されて以来、200万部を超える大ベストセラーとなっています。
(『漫画 君たちはどう生きるか』マガジンハウス)
羽賀さんの漫画には、見た人の心を懐かしくあたたかい気持ちにする不思議な力があります。
これまでに『バガボンド』、『ドラゴン桜』、『働きマン』、『宇宙兄弟』など数々のヒット作を生み出してきた編集者の佐渡島庸平さん(株式会社コルク代表)は、「講談社でマンガ編集の仕事を10年してきたのですが、その10年間で読んだ新人マンガ家の中で、羽賀君に最も才能を感じた。」と語っています。
そんな羽賀さんは、実はモンテッソーリチャイルド!幼少期をモンテッソーリ園で過ごし、モンテッソーリ教育で育ちました。
今回は羽賀翔一さんに、モンテッソーリ園での思い出やモンテッソーリ教育で培ったものを伺いました。
(聞き手 あべようこ)
モンテッソーリ教育の思い出
モンテッソーリ教具、大好き!
– 羽賀さんは、3歳からモンテッソーリ教育を実践する子どもの家(現:トッポンチーノ保育園)に通われていたとのことですが、その時の思い出はありますか?
「僕は、モンテッソーリ教具が大好きでした。
“ピンクタワー”にしろ、“メタルインセッツ”※にしろ、子どもながらに『違う世界から来たものだ! 』みたいな印象があったことを覚えています。
デザインだって今見てもカッコいいし、洗練されていて古くない。
(※書くための言語教具:メタルインセット)
子どもの時はそこまで言語化はできていなかったですけど、触っていてワクワクしたし、『このピンクとか青とかは、今まで見たことのない色だ!』という印象がありました。
しかも、ただ漠然と触れ、なんとなく遊んでいるんじゃなくて、教具を扱う秩序や手順があり、そういう中で手を使って物に触れることは、自分にとって非常に大事な経験だったと思います。」
(※目で大きさの違いを識別する感覚教具:ピンクタワー)
モンテッソーリで培った、観察する力
– 漫画家の羽賀さんの口から「ピンクタワー」とか「メタルインセット」という言葉を聞くと、ああ本当にモンテッソーリ教育で育った、ベストセラー漫画家が目の前にいるのだな、とドキドキします!その他には、何か覚えていらっしゃることはありますか?
「モンテッソーリ教具が好きだったという記憶の他には、観察をして物事を良く見る、ということもモンテッソーリで培ったものだと思います。
例えば僕が漫画で目指していることは、登場人物の感情の目盛りを非常に細かくするということです。」
– 目盛りとは?
「何かが出来事があって、嬉しい!という気持ちになるまでには感情の曲線があるわけじゃないですか。波が高まっていって『嬉しい!』と言う感情になる。
その感情がまた何かをきっかけに別な方向に推移していくんですけど、そういう感情の流れを漫画で丁寧に刻もうと思っています。
例えば、今のコマで“3”の悲しみでも、次のコマでは“3.5”の悲しみになる。0.5位の感情の違いみたいな物を正確に拾って表現していくことでリアリティをもたらし、読んでいる人の気持ちを動かしたいんです。」
– なるほど、それが感情の目盛りなんですね!
漫画にも役立つ“観察眼”
「結局それは幼い頃に培った“観察力”がベースになっているんだと思います。ピンクタワーがちゃんと大きいものから少しずつ小さくなっていく、あの順番でキューブを積み重ねていくのと同じ。
間違った大きさのものを間違った順番で並べてしまうと、読者は『あれ?』と違和感を持ってしまいます。
だからそこを正確に並べるように心がけることは、実は初期の漫画の『インチキ君』の頃からやっていることなんです。漫画の中で、正確に表現したいなと思っています。」
(『インチキ君』コルク)
– インチキ君は、羽賀さんの大学生の時にかかれた漫画ですね!まさに最初から感情の目盛りへの配慮があったんですね。
「後は観察によって、印象とか、言語化しづらいものを線にする―――ニュアンスをくみ取るというのは得意かなと思います。
例えば似顔絵って写真をそのままうつしても似ないんです。その人の雰囲気や“人となり”みたいなものをキャッチすると似顔絵にしていけます。
その人っぽさが見えて来るということが大事で、それを少ない線で表現することが好きだなと思います。」
モンテッソーリチャイルドの集中力
– ちなみにモンテッソーリ教育は藤井聡太さんで再注目をされ、集中力がつくと言われています。羽賀さんも執筆中はかなり集中をされるのでしょうか?
「実は小さい時の方がむしろ集中できていたかもしれません。子どもの頃はもう右手が鉛筆で真っ黒になるまで漫画を描いていました。小学校2年生位から書き始めて、5,6年生までずっと夢中で描いていたんです。
今でも、特にネーム作成時(コマ割り、構図、セリフ、キャラクターなどを下書きすること)は集中します。ネームが決まってしまえば後は、話ながらとか音楽を聞きながらやっても差しさわりはないんですけど。
ネームは、先ほども言ったような、読者が読んで違和感がなく正確に描かれているかとか、読みづらくないかとか、この人は話してこういうしゃべり方するのかとか、そういうものを寄りと引きで、ずっと繰り返しながら確認しています。だからそこは割と集中力のいる作業かなと思います。」
モンテッソーリで育った子の特徴
絵で人を喜ばせる、喜び
– 故・相良敦子先生のイデー・モンテッソーリでのインタビューの際にお伺いしたのですが、モンテッソーリ教育で育った子どもは、人を喜ばせるのは好きという特徴があるそうです。羽賀さんも、昔から絵などを通じて人を喜ばせるのは好きだったんでしょうか。
「そうですね、小学校の時にはオリジナルのストーリー漫画をみんなに回して読ませていました。また2年生の時には漢字辞典を引っ張ってきて、どの漢字が一番強そうか考えて、漢字の形をキャラクター化して戦わせるという遊びをしていました。そういう遊びを考えたりするのはわりと好きだったかなと言う気がします。
モンテッソーリの子どもの家の時も、工作や絵もずっと好きでした。新しいスーパーマリオのブリーフを買ってもらったのがうれしくて、パンツ一丁のキャラクターを折り紙でつくって、『ブリーフマン』として遊んでいました。幼稚園の時に、なんであんなのつくっていたんだろう・・・?笑。でも、小さな時から自分なりのキャラクターをつくったり、自分なりのものが描け、まわりに喜んでもらえた時はうれしかったという記憶があります。」
(右:モンテッソーリのこどものいえに入園した3歳の時の羽賀さん)
漫画に生きる、先を見通す力
– 後、モンテッソーリで育った子どもの特徴として先を見通す力があるとも言われています。それがないと子どもの頃からオリジナル漫画は描けないですよね?
「そうですね。子どもの時、『よいこちょう』という無地のノートに7冊分も書いていたんですが、ちゃんとそれぞれの漫画を完結させていました。6冊目の最後のページで『次巻・最終巻!』とか、勝手にあおりみたいなものをつけてまわしていたら、『翔ちゃん、なんで後一冊で終わるってわかるの?』と驚かれました。
なんとなく自分の中で『ストーリーが、こうなって・こうなって・こうなる』のようなことが、頭の中であったんだと思います。そういうものがはっきり浮かんでいると、例え子どもでも漫画を描くことをやり切れると思うんです。」
モンテッソーリで培った最大の力とは!?
– 最後に、モンテッソーリ教育で培った、一番良かったことはなんでしょうか?
「やっぱり観察する力です。見るだけではなく、教具を触ったことによる、自分の感覚に対する、観察も含めます。
物との距離感、教具との距離感って、それは“人との距離感”にも応用できるものだと思いますし、今のマンガとの距離感にも広げていけるくらいの大事な物になっています。
漫画を描いている時の自分の中での小さな違和感…ここはこうすると読みづらいな、この表情なんか変だなとか、そういうところへの気付きみたいなものは、モンテッソーリで小さい時に育まれたものだと思うんです。」
(前:子どもの頃の羽賀さんと、いとこのお兄さん)
コルク代表の編集者、佐渡島庸平さんも「『“作り方“を作ろうとしている作品にふれると、魅力と脅威を感じるが、羽賀君のマンガには、投稿作の時点ですでにその気配があった。これは”作り方“を作ろうとした結果、生まれた作品だ』とダ・ヴィンチニュースの記事(※下記リンク参照)で語られていました。
そういった作品づくりの原点は、モンテッソーリ教育で培った観察眼にあったのですね。
次回は、モンテッソーリ教育第一人者であった相良敦子先生との秘話をお伺いします!
(第一話終わり)
羽賀翔一オフィシャルウェブサイト
羽賀翔一さんの所属するクリエイター・エージェント
株式会社コルク
羽賀翔一さんの育ったモンテッソーリ園
つくばトッポンチーノ保育園(旧:つくばモンテッソーリ子どもの家)
ダ・ヴィンチニュースでの羽賀翔一さんと佐渡島庸平さんのインタビュー記事
お知らせ
イデー・モンテッソーリでは、モンテッソーリ教員資格者の求人情報の案内も行なっております。資格をお持ちで仕事をお探しの方は、是非ご覧下さい。
↑↑クリック or タップ↑↑