本企画では、齊藤太一さんにお伺いしたお話を、3回に渡ってお届けします。
第1話 子どもにとっての植物 (←今回はこちら)
第2話 子どもにおすすめの植物
モンテッソーリ教育と植物
「モンテッソーリ教育」と聞くと、ついつい、創始者マリア・モンテッソーリが考案した教具や、指先を使う活動だけを思い浮かべてしまいませんか?
本来重要な役割を持っているのに、意外と見落とされがちな存在・・・それは「植物」。
マリア・モンテッソーリは、自然の素晴らしさに触れ、尊重することが、子どもの心の発達に深い影響を及ぼすと考えており、「植物の栽培」や「植物の観察」がとても重要だとしました。
そのため、理想的なモンテッソーリ園では、室内も屋外も美しい緑で溢れています!しかし、現代において、特に都会で生きる子ども達にとっては、なかなか自然を感じる機会が少ないもの。どのように植物と関わりを持っていけば良いのでしょうか?
今、国内外で活躍中の植物のプロフェッショナル集団・SOLSO代表の齊藤太一さんに、モンテッソーリ教育の立場から、3回に渡って植物の話をお聞きします!
第一回は「子どもにとっての植物」についてお話を伺いました。
齊藤太一(さいとうたいち)/ ガーデナー
SOLSO architectural plant farm 代表。岩手県生まれ。高校生の頃から造園、野菜生産、山野草の採取を学ぶ。2011年SOLSO architectural plant farmを設立。話題の施設の空間プロデュースを数々手がけている。「SOLSO FARM」のほか、「BIOTOP NURESERIES」(白金台 / 大阪)「SOLSO HOME」(伊勢丹本店 / 二子玉川)、「GREEN’S FARMS MARKET」(尼崎)等を展開。個人邸の庭、園庭設計、オフィスのレンタルグリーン、ショップや商業施設のグリーン・ディレクションなど、幅広い分野でグリーンに携わっている。2歳と5歳の二人の子どもの子育て中。
緑の意味
– 齊藤さん、本日は大変多忙な中、イデー・モンテッソーリのインタビューを受けて下さり、誠にありがとうございます。
さて今回は、植物の専門家である齊藤太一さんに、植物に関するお話をたくさん伺いたいと思います。子どもを緑の中でのびのび育てることは、皆の願いだと思いますが、都会だと緑が少ないですよね。特に触れなくても暮らしていけるので、気がつくと、後回しになりがちだと思います。
まず、ご自身は子どもに対しての「緑の大切さ」や現状を、どんな風に感じていらっしゃるのかお伺いできますか?
「僕は『緑』を考える時、緑色自体を『命の色』として捉えているんです。例えばハートマークはピンク色で、心や愛が象徴されるように、緑は命。子どもの時期に『命』を大切にしたり触れ合ったりすることは、とても大事だと思います。」
都会の子どもにとっての自然とは
「僕は岩手出身で、人よりも自然が多い環境で育ちました。今もこういう植物に関わる仕事をしているので、都会にいても一般の方よりも千倍くらい自然に触れる暮らしをしていますが、今の都会の子ども達はそうではないですよね。
おじいちゃん、おばあちゃんは、『かつて自分の子どもの頃は、裏山があって、虫取りして川で魚をとって遊んだものだ。』『今の子ども達はそういうことをしていないし、魚はスーパーで見る切り身で泳いでいると思っていやがる!』と言われるかもしれません。『じゃあ今の世の中を作ったのは誰ですか?子ども達のまわりに自然がなくなったのは、あなたたちにも責任があるのでは?』と思っています。
じゃあ今度は自分が『未来に何をどう残していくか』と考えていくときに、昔のような豊かな自然環境を取り戻していくという活動は、是非やっていきたいことではありますが、残念ながら実際はものすごく大変で、なかなかできっこない。だから現実的にできることから考えて、子どもに自然を残していかなくてはいけないと思います。」
– では、現実的に可能な「自然」とは何なのでしょうか。
「今の都会の子ども達にとっての『自然』って何だろう?と考えた時に、それは実は身近なガーデニングみたいなものなのです。
そういう身近な物から、都会の子ども達がどれだけ『自然』や『命』を学べるかということを、大人はすごく大切にして行かなくてはいけないと思うんです。」
(住宅街にあるガーデニング〔ポートランドのPuddletown Montessori〕)
– 一般的には、ガーデニングや家庭菜園というと、趣味の延長みたいな位置づけですよね。
「そうですね。でも現代においては、子ども達に『自然』を感じさせる非常に重要な物だと思います。」
小さな自然の中にも驚きと発見を
「そして僕が色々な施設などをつくる上で目指すのは、子どもたちが身近なことから、色々な発見ができること。ちょっとした小さな自然であっても、子どもに『驚き』と『発見』があってほしいと願ってやっているんです。
例えば、都心の商業施設をデザインする時も、風で動くものや、日差しを受けて面白い影をつくるものとか、自然によって子ども達がちょっと『発見』できるプレゼントを内緒で仕込んでおく。それだけで楽しいんです。
昔の大自然を取り戻す、みたいなスケールの大きな事はなかなか難しいから、まずはいくつ『自然に興味を持つきっかけ』を作れるか、ということに重きを置いてやっています。そして小さなことから子どもに緑を感じてほしいと願っています。」
(SOLSO FARM〔神奈川〕)
-「小さなことから緑を感じてほしい。」そのような考えに至った経緯には、何かきっかけがあったのでしょうか?
自然が増えるきっかけづくり
「ある時期、植物がいかに人間の日常に根差しているかということを掘り下げて、数年間もずっと真面目に考えていました。
例えば『衣食住』においても、家の柱も木、着ている服もコットン、紙もパルプ、酸素が生まれるのも植物のおかげ、お肉だって、元々は動物が草を食べてできたもので、全てのもとをたどると自然と繋がっています。あらゆることを勉強し、根本的なことを掘り下げ、グリーンのあり方や自分の仕事を意味のあることにしたいと思って悩みました。
深く考え頭でっかちな知識がいっぱいつきましたが、行きついた結論は、『植物の意味』『植物の大切さ』などは、他人に難しく伝えようとするのは無理だな、ということです。」
– では、どんな風に植物の大切さを伝えていこうと思ったんですか?
「まずは植物が『おしゃれ』であること!人々のライフスタイルに根差すように、『雑貨感覚でちょっと置いてみよう』というきっかけを作ることが大事だと思ったんです。」
(SOLSO FARM)
– 『ちょっと置いてみようかな。』とまず気軽に思えるのが大事なんですね。
「例えば、家にかわいくておしゃれなサボテンの鉢が一鉢来た。そこからスタートすると思っています。」
– 確かに、SOLSO HOME(東京)や BIOTOP NURESERIES(東京・大阪)などには、常におしゃれな植物や園芸用品がたくさん売っていますよね。
(BIOTOP NURESERIES〔東京〕)
「そうなんです。小さなきっかけからはじまり『いつかおうちを建ててスペースがあったら、素敵なお庭をつくったり、家庭菜園というものをやってみたいね。』と思ってもらいたい。
または、ここ(神奈川のSOLSO FARM)や武蔵小杉グランツリーのぐらんぐりんガーデンを見て、『いつかこういう緑のある家に住みたいよね』『あの時のあの感じすごくよかったよね』とちょっと思ってもらえたら、少しずつでも、子どものまわりに自然が増えていくかなって。」
(SOLSO FARM)
外環境のつくりかた
―実際、SOLSO FARMやぐらんぐりんガーデンなど、子ども向けの素敵な庭園や商業施設をたくさんつくられていますが、どんなことをポイントにされていますか?
「例えば幼稚園の園庭をつくる時、自分が一方的に考えるよりも、子どもに『どう動きたいか』聞きます。興味を持つきっかけを与えることが大事じゃないですか。
年齢によって、色や形の好み、肌触りなどの感覚が違うから、そこにある程度フィットしたものを与えていかないと、なかなか自分のものにできないと思うからです。
例えば、今年はうちの5歳の息子が昆虫に興味を持っているので、食虫植物を育てさせたりしています。もっと小さい時は、すごく香りに敏感だったのでハーブを育てていました。『ちょっと葉っぱの香り嗅いでみて』と伝えると『あ、すっごい、いい匂いする』と喜んでいました。
園庭にチューリップの花壇をつくる時も、品種だけではなく、花の色でもデザインしてガーデンをつくったりします。
(武蔵小杉ぐらんぐりんガーデン〔神奈川〕)
幼稚園で『何色好き?』と聞いて、ある子が『ピンク!』と答えたとします。『じゃあ、ピンク色のチューリップをどこに植えようか?』と、色を決め、植える所から子どもが考えます。『ここに植えたい』『でもここは、砂利ばかりで土がないからかわいそうだよね。じゃあ、どこがいいかな。』と。
僕が一方的に決めてしまうのではなく、子どもと一緒に庭をつくっていくんです。」
素敵なグリーン空間をたくさん手がけてきた齊藤さん、ありがとうございました。
次回は、具体的に「子どもにおすすめの植物」をテーマに、小さな子どものいるクラスや家庭でおすすめの観葉植物やグリーンのアイデアをたくさんお伺いします!
齊藤太一さんが代表をつとめる、SOLSOのHP
(第1話終わり)
お知らせ
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